市販のEV初となるCセグメントボディの「リーフ」。軽自動車の三菱i-Miev、富士重工のプラグイン・ステラとともに話題と実用性を高め、今後のEV普及の鍵を握っていくことになるだろう。忘れてならないのは、オートEVジャパンやゼロスポーツといった大規模ではないが、長くEVと取り組んでいるメーカーの存在だ。EVに関しては規模の大小に関わらずベンチャーとしても事業成立が成り立つことをアメリカでは実証されているのだ。理由は環境対応と部品点数(動力部分の)の少なさと言われている。 |
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イラストは日産自動車hpにあるEV専用レーン構想のイメージ。路面には非接触充電や走行中充電の技術がフィードバックされる。今EV関連では三菱自動車と富士重工が話題になっているが、日産は9年前にハイパーミニというEVを200台普及させた。その歴史と技術の積み重ねは注目に値するものだ。 |
8月2日、日産自動車は満を持して次世代移動体の「明日」を問うEV、「リーフ(葉:なかなかシャレた名前だ)」の概要を発表、来年末の発売を示唆した。日産の横浜新社屋も「新」、クルマの概念も「新」というのも、どこか象徴的な感じがする。
発表会見のゲストも豪華。EV普及の急先鋒である、松沢神奈川県知事は当然としても、数日前に就任中辞任を決めた中田横浜市長は、おそらく決まっていたスケジュールでやむなくという感じ。注目は小泉元総理。神奈川(特に追浜)と日産とは深い縁があるとはいえ政界引退を決めている方。しかしこの人が「脱石油自動車普及の日も近い」と言うと、どこか説得力がある(首相現役時代、燃料電池車の時も同じようなことを言っていたかも。政治家特有のリップサービスかな)。が、もし今でもこの人の政権だったら、EV普及はもっと早まっていたかもしれないことをサラッと匂わせた。
同社のカルロス・ゴーン社長によれば、
「日産リーフは、すべての日産の従業員が誇りを感じて良いほど、非常に素晴らしい出来となった。私たちは、エミッション(*注:クルマの場合排出ガス)が少ないのではなく、エミッションがゼロとなるクルマを公開するこの日を実現するために懸命に取り組んできた。これは世界中の人々が間違いなくエキサイティングに感じる新しい時代に向けた最初の一歩である」
と、自信満々のコメントを述べている。
日産リーフに関する詳しいことは、同社の http://www.nissan-zeroemission.com/JP/LEAF/index.html を見ていただくとして、ここで気になるのはEVやハイブリッド車の今後ということではなく、果たして自動車はこれから一体どこへ向かっていくのか、ということだ。
(表をクリックすると拡大します。)
数字の羅列で恐縮だが表を見てほしい。表1と2は国内メーカーの生産台数統計、表3と4は同販売台数統計(いずれも乗用車カテゴリーに絞った。日本自動車工業会データベースから検索)だ。
それぞれ2通りあるのは、前者が2007年7月〜昨年6月、後者は昨年7月〜今年6月をあえて並べてみた。端的に言えば、前者のデータは生産、販売ともに自動車メーカーがイケイケの時期。そのたった1年後には、後者のような有様になってしまったことを分かりやすく表現すれば、こうする以外なかった。
表をご覧になれば一目りょう然だと思うが、生産台数は約1200万台から約880万台へ。販売台数は約530万台から約450万台へと劇的に落ちていることだ。比較的ダメージが少ないダイハツやスズキの主力が軽自動車であることも、事態の深刻さを語る上で大きな目安となるだろう。
果たしてどちらの統計がリアルなものなのだろう。私は後者(数字の悪い方)がこれからの妥当な生産と販売台数だと考えている。
移動体としての自動車の価値は、当分変わることはないだろう。しかしその目的がステイタスの象徴であったり、不要不急分の実態との兼ね合い、代替サイクルの長期化など、利用者の購入や買い替えの動機は大きく根底から変化していくものと思われるからだ。
そこで、周辺の環境や構造変化から見た、自動車が向かうであろうシミュレーションを独自の目線で考察してみた。
国も企業も人も大所に立って、が課題だ
高速道路の無料化は、第一歩
何をもってしても、このことによって自動車(の生産や販売)にマイナスな要素は見当たらない。
いずれにしても、足の長い(燃費の良い)クルマはこれからも重宝されることは明白で、ここ数年は、ハイブリッド車同士がしのぎを削り合うことにはなるだろうが、並行してアッと驚くような新機軸(化石燃料に依存しない内燃機関)を世に出したメーカーが、それなりの覇権を握ることになるだろう。
一方EVの方は、スタンドやサービスエリアでの充電設備の充実によっては、日産リーフのようなCセグメントタイプEVの普及が飛躍的に高まるだろう。
インフラ技術面では、10年程度の時間が掛かると言われているが、コードレスの「非接触充電」や、道路自体に充電センサーを埋め込んだ「走行中充電」の開発も進んでいる。
走行距離に不安があるEVの普及に不可欠なのは、なんと言っても「安心の充電」だ。ここを解決させることが鍵になるが、各企業の技術もさることながら、それを支える政治と行政の手腕と先見性が問われることも間違いない。
もはや、道路はタダか1000円かとか、高速道路はあと何キロ造るといった次元の話しではなく、これからの道路はどうあるべきかを問われる時代に突入しているのだ。
複数所有への道筋
理想とされる形としては遠距離用と短距離用の2台を所有するという一見贅沢な夢のような話し。これは、一つには普段の使用(データでは1日平均50?程度しか走らないそうだ)には超小型、超省エネ、環境対応タイプ(シティコミューター型EVなど)を活用し(2人乗りで十分)、都市部の渋滞や使い勝手などに配慮し、もう1台はロング&トラベルツアー用にそれなりの大きさと快適性を持ち合わせた仕様の2台を所有出来ることへの道筋。
これが普及する方法はほぼ2つ。一つは2台以上所有(ただし、上記のような持ち方が条件)への劇的な課税軽減、もう一つは車両保管(駐車場)のコスト問題。短距離タイプにはそれなりの優遇措置を採るなどする施策。そこらへんが実現すれば、クルマの販売がこれ以上低下することはないだろう。エコカー減税や補助金などはその場しのぎの瞬間風速策であって、抜本の解決策にはならない。
いくら走行してもエコが課題
詳細な検証は明らかではないが、この度の高速道路の土日・祭日1000円セールが招いた現象として、土日・祭日に大量のクルマ(乗用車)が高速道路に集中したことだけは確かで、それによる渋滞の誘発やCO2抑制に逆行したことは想像に難くない。
高速道路の無料化で、その危険性はさらに増すとの論調があるが、特定条件を設けないことこそが大切で、恒久的な施策にすれば、少なくても一時期にクルマが集中するとは考えにくい。事業における選択と集中は大切だが、道路にとっては不都合なのである。
極めて重要なことであるが、人がクルマを介して移動する自由は距離を問わず絶対に守られなければならない。究極の理想は、走行距離=エコに逆行ではなく、いくら走行してもエコ、が最終的な目標であるべきだ。
例えばハイブリッド車(カソリンの)であっても、走行距離分のCO2排出量が抑制されたのであって、ゼロとなったわけではない。そこは段階的なものと割り切って、ハイブリッド技術は、そのランニングコスト上の経済性とも相まって現在の最良と見ること自体は間違いではない。
問題はこれからだ。考えられる可能性は大きく二点ではないか。
一つは、非石油依存の内燃機関。実現性としては、水素、バイオエタノールが候補となるが、技術面はともかくインフラとコスト面が今後の大きな課題となるだろう。
そしてもう一つはさんざん述べてきているEVの行方だ。EVに供給される電力の発電時におけるCO2排出は火力依存度が高い現時点では小さくないが、少なくてもEVは走行時のエミッションがゼロだ。前述したインフラなどが飛躍的に整備されれば「いくら走行してもエコ」を標榜できる最良の移動体に成り得る可能性は、誰から見ても高い。
2009.08.04 記