No.012 高速道路無料化こそChangeの口火!

百年に一度の不況を大義として、建設を凍結していた高速道路建設が一部復活しようとしている。これを私は勝手に「官僚パブロフの法則」と呼んでいる。要するに、予算ブン捕り大好き官僚による、予算使いたがり本能の条件反射だ。毎度のことながら情けないし、悲しい。当コラムNo.007と010でも触れているが、まさに政と官の品格を疑いたくなるのは私だけではあるまい。

誤解されては困るが、高速道路の建設自体に反対しているのではない。景気浮揚の策として、道路やハコモノ公共事業が真っ先に浮上する、その短絡的なセンスを疑っているのだ。
本来インフラとは、目的は建設ではなく、ヒト、モノをスムーズに移動させるための手段であるはず。だから、いかなる公共物も、建設にあたってはその明確な目的が示され、かつ中長期的な展望が社会資本に有意義とされて初めて実現されるのが正しい順序だ。
この、ごく普通の原理原則が伴わない国になってしまったから、劇的な仕組みのChangeが急務となっている。よくよく考えれば情けない話しだ。

さて、高速道路無料化。このコラムのNo.003でも触れているが、その重要性、実現性、効果、道筋などについては 山崎世氏のサイト で詳しく述べられているので、ぜひご覧になっていただきたい。まさにChangeへの大きなきっかけとなる、目からウロコの提言だ。
問題は、それを実現させるために我々は何をすべきか。その一点に尽きる。

高速道路無料化を考える時、その弊害となるのは政官業の既得権益構造が一番と思われているが、国民の「有料慣れ」こそが最も危うい、と、ふと思う。
私は自動車運転免許を取って40年になるが、かつて自動車雑誌編集者という立場にありながら、高速道路料金というものが不条理だとはほとんど思わなかったし、疑問にすらも感じなかった。要は自分も含めた国民の勉強不足。問題はここだ。
どうやら日本では長い時間をかけて、そういう常識や慣例(高速道路は有料)を国民や高速道路利用者に植えつけてきたことになる。もっと言えば洗脳されてきたのだ。
だから、国民一人一人の意識の変革。それこそが第一、と言わざるを得ない。

JARTIC(財法人 日本道路交通情報センター) のhpを開けばリアルタイムの渋滞状況が検索できる。画像は5月1日午後時点の近畿地区のもの。ちょっとひっかかるのは、「まず、渋滞ありき」から始まる情報設備ということだ。当たり前のことだが、これで渋滞が緩和するものではない。せいぜい迂回を補助するものにすぎない。

民意と政治決断

そんな、高速道路無料化を政治主導で行ってしまおうと、民主党は以前よりマニフェストで、高速道路無料化を公約しており、次の総選挙でも高速道路政策大綱に盛り込むことを決定した。概要は以下のようになっている。
http://www.dpj.or.jp/news/files/0090325kousokutaiko.pdf

1.無料化の目的・効果
(1)生活コスト・企業活動コストの引き下げ。
(2)地域活性化。
(3)温暖化対策。
(4)「ムダづかい」の根絶。

2.施策概要
●現在、高速道路会社6社が管理する高速道路は原則として無料とする。
●実際の無料化にあたっては、首都高速・阪神高速など渋滞が想定される路線・区間などについては交通需要管理(TDM)の観点から社会実験(5割引、7割引等)を実施して影響を確認しつつ、実施する。
など。

3.無料化による財政負担
●保有機構が抱える債務35兆円は、無料化開始時点で国が承継する。
●債務承継による国の財政負担(合計1.26兆円)。
●元本の償還…承継債務を順次国債に乗り換え、その後は国債償還の一般ルールである60年償還ルールに基づき償還する。よって、毎年度承継額の1.6%を一般会計から国債整理基金特会に繰り入れる。
  35兆円×1.6%=0.56兆円。 利子の支払…承継元本に金利(H21=2.0%)を乗じる。
  35兆円×2.0%=0.7兆円。
など。

4.道路会社6社の取り扱い
6社を統合し、当面の間、以下の業務を担当する。
(1)高速道路等の管理業務。
(2)新設を含むIC,サービスエリア(SA,PA)を軸とした地域開発。
(3)長大橋など高規格道路の企画・設計・建設。
(4)道路会社の職員の再就職支援。
など。

特定政党が、ある程度は選挙を意識して作っているから、耳ざわりのいい文言の羅列であることは否めない。だが、政治的な決断なくして道路問題は絶対に変わらない。残念ながら、それが現実だ。
ここで「手っ取り早く」という言葉を使うのは少々乱暴かもしれないが、それを実現してもらえるならば、国民からすれば、まさに手っ取り早い。

私は、高速道路無料化大賛成論者だから、総論としては上記の政策に賛成だ。民主党に肩入れしているのではない。時代の変化に応じた施策を行う可能性のある政策と実行力があるところであれば良しとするだけだ。

1000円セールは、基本の問題解決になっていない!
では、なぜ与党が作った高速道路1000円策ではダメなのか。
これを書いている時は、世間はGW真っ只中。ETC1000円セール(2年という期限付きだから、あえてそう呼ばせてもらう)で、高速道路の要所は渋滞のさ中だ。(地図:参照)
エコカー減税とのセットは、現時点の政治レベルとしては大盤振る舞い。しかし、想像してほしい。1000円セールのツケは2年で1兆円。それも役所の試算だから実際はもっと高額になるだろう。
その後そのツケを一体なにで賄おうとしているのか、現時点ではまったく見えないからそこが恐い。そもそも、複雑怪奇な今の仕組みを変えないまま、その場しのぎの施策だから、将来展望なんて何もない。そこが一番ヤバいし、危ういのだ。
そして、セールが終われば、また元通りの世界一高い高速料金が復活する。そこに残るのは使われなくなったETCと巨額のツケ、なんてまんざらブラックジョークではありません。
想像どおり、GW中の高速道路は大渋滞だった。今までの大型連休渋滞をはるかに凌いでいる。格安(?)に群がる人の心理自体は理解できる。そこで、
1. 案の定、通常の数倍規模で事故が増えた。
2. ただでさえ疲弊しているトラック運送業者が、さらに悲鳴をあげた。
3. フェリー利用者が3分の1に減った。廃業に追い込まれる可能性すらある。
4. パーキングで仮設トイレを作ったが、それでも利用者(特に女性)の長蛇の列ができた。
5. パーキングへの進入渋滞に耐えられず、バスなどから手前で降車するシーンが頻発した。これ、恐ろしく危険。
などなど・・・・・・。
そもそも、恒久的な施策でないから、このような正常ではない状況が起き得ることは火を見るより明らかだった。それでも政官は、大量の人の移動を見て「景気拡大だ!」とほくそえんでいることだろう。もしかしたら、この渋滞を緩和するために、さらに高速道路を作ることを本気で考えているかもしれない。そこまでいったら、もう救いようがない。
今必要なことは、単なる格安料金や高速道路の追加整備ではなく、仕組みや道路の改良(出入り口を大幅に増やすなど)のドラスティックな転換しかない。

高速道路無料化が、何から何までバラ色とまでは言い切るつもりはない。が、少なくても受益者の負担でのみ成り立つ既得権益者は存在しづらくなる。ここがChangeの突破口になるはずだ。高速道路に限ったことではないが、今の日本のChangeに必要なことは、一にも二にも、このような不透明な権益構図の全廃だ。
今、最も分かりやすい「高速道路」というテーマから始まって、ありとあらゆる不条理な仕組みを変えていくことが実行されない限り、日本は永遠に世界に誇れる先進国になることはない。
2009.05.05記

  渋滞検索には、カーナビの進化が不可欠だろう。写真は、VICS/FM多重チューナー内蔵(VICSレベル3表示に対応)により、設定したルート上に発生している渋滞情報を画面に表示。DoモニターまたはDoリモコンの「渋滞」をワンタッチすることで、自車位置に近いところから順に最大5ヶ所まで渋滞ポイントを確認できるという。しかし、理想的にはそのような機能を使わずに済むに越したことはない。出展:パイオニアhpより。

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