No.008 上海モーターショー報道で感じた希望と不安


大盛況だった上海モーターショー。やはり人口の多さを感じる。このマーケットの生活水準が上がることが、世界の景気低迷に貢献?

今年の秋に開催される東京モーターショーへの出展企業が、折からの不況のあおりからか、激減している反面、今行われている中国・上海でのモーターショーが、ニュースから伝わるところによると、出展企業は1500社にものぼり大盛況という。
そりゃそうだ。なんといったって中国は世界一の人口国。そして、日・米・欧のGDPが軒並みマイナスなのに、この国だけはプラス。それも6%台でも低調と豪語するあたり、そのイケイケぶりは目を見張るばかりだ。オリンピック景気はまだ衰えていない。

日・米・欧の自動車各社が、中国のマーケットを睨んで攻勢をかけるのも無理からぬこと。何がなんでも減産状況を打破しようとやっきなのは十分理解できる。
今始まったわけではないが、「時代は中国ね」というのが、大手、中堅メーカーの共通認識となっている。なんか縮小一辺倒のアメリカへの反動のような気がしないでもないけど、メーカーも必死なんだから、そこは暖かく見守るべきでしょう。

模倣国家はいただけない

で、中国のモータリゼーション。この凡人でも気になることが2つある。
一つは、この国の「知的所有権」に対する意識と認識の問題だ。
ロールスロイスやマツダ・デミオのそっくりさんや、普通のミニバンに施されたキドニーグリル(BMWのシンボルグリル)なんてのは日常茶飯事。それでもメーカー側は「オリジナルです」と言い切っちゃうところが、毎度のことながらスゴい。
日本にも個人向けに「カスタム」というカテゴリーで、ブランドモデルの意匠をいただいてしまうことはある。でも、これってメーカーは絶対にやらない。知的所有権の侵害になるからだ。厳密に言うと小規模企業であろうが、侵害は侵害。裁判になればまず勝てない。

日本も、かつてルノーやオースチン(昭和30年代)のコピーを作っていた時期がある。これはKD(ノックダウン)方式といい、名称も本国のものを使用した正式な手続きをふんでのことだ。これが世界標準のルールというものではないか。
かつて、中国の公的なアミューズメント施設が、ディズニーやサンリオのキャラクターを平気で使いまくって世界からヒンシュクを買ったのを覚えているでしょう? 自動車の意匠への意識もまったく変わらないようだ、この国は。

いろんな部分で大国へと進んでいくことに異論はないけれど、世界標準の「知的所有権」への認識、ルールを遵守することで、初めて真の大国になっていくものと思うのです。

欲望と環境の共生モデルを

第二は大気汚染。
中国は劇的な景気の向上から、一定以上の収入人口が倍倍ゲームで増えていき、必然的に高額商品である自動車へのニーズも大幅に増えた。その売り上げは、ついにアメリカをも抜いたということだから、そのポテンシャルは半端ではない。
そりゃそうだ。人口は3億人のアメリカのなんと4.4倍の13億3000万人という、この数字が中国のまぎれもないマーケット・ポテンシャル。世界が中国の景気動向に注目している理由も分かろうというもの。次は人口2位のインドでしょうね。こちらは11億4000万人。この2国が人口では飛びぬけている。

そこで、心配なのが大気汚染。レッドクリフを観ないまでも、中国の国土が広大なことは誰でも知っている。そこで収入が増えて、すぐに飛びつきたくなるのが理想の足である自動車ということになる。
一時期と比べれば、各社自動車の排出ガスは飛躍的にクリーンになったことは間違いない。でも多かれ少なかれ化石燃料をエネルギー源として使用することも事実だ。
トヨタは、中国向けにカムリ・ハイブリッドを導入する予定になっており、1台当たりの化石燃料消費量を抑えることに寄与はしようとしているが、とにかくこの膨大なニーズと普及の加速度を見れば、クルマによる大気汚染、CO2放出がそう遠くない時期に社会問題化していくことは、まず間違いないでしょう。


日本では派手な存在ではないが、中国を含めた世界戦略車のカムリ。写真はタイで生産されるカムリ・ハイブリッド。マニュアル仕様の燃費は34?/・とされている。どことなくホンダSR-9と似た高級フォルムが中国人の好みらしい。
 
中国との合弁企業、東風ホンダがコンセプトカー「SR-9」を発表。流麗なデザインとダイナミックな乗り味を併せ持つスポーティプレミアムセダンが、今の中国最大のニーズ。これをベースとした新型車を‘09年内に中国で発売する予定だ。

日本の自動車の夜明けは昭和30年代だった。つまり半世紀前ということになるが、構図としては中国とよく似ている。
大気汚染(公害)問題は、自動車から始まったのではなく、企業の産業廃棄物から始まっている。自動車は‘70年代の米カリフォルニア州法、マスキー法から大きなムーブメントへと定着している。その結果、日本の技術は低公害と低燃費へと進んでいき、ほんのちょっと前まで北米での販売をリードし、円安とも相まって日本の発展に寄与してきたことはご存じのとおり。このコンセプト自体は今後も変わることはない。エコ車両技術世界一を目指すということだ。

日本人にしても中国人にしても、自動車という最高の移動手段を選ぶに際して、そこに介在するのは所有者の嗜好と欲望であろう。供給者であるメーカーがしのぎをけずるべきは、中国国民が求める意匠や性能はもちろんだが、将来を見据えた環境技術であるべきとも思う。

中国人だって、地球温暖化を増幅させて生活したいとは思っていないでしょう? 彼らが欲するのはカッコいい移動手段なのであって、中身がエコでも異論はないはず。日本のメーカーの挑戦は、この大国での単なる自動車普及(販売)ではなく、経験を踏まえた環境インフラの普及なのではないでしょうか。
2009.04.27記


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