No.034 トヨタのフルチョイス・システムをもう一度見直せないか?

‘70年代前後、アメリカではマスタングを中心とした「スペシャルティカー」というカテゴリーが人気を集めていた。それにあやかって登場したのがトヨタ・セリカだ。1970年のことである。
同時にデビューしたカリーナとプラットフォームを共用し、カリーナは純粋なセダン、セリカはロングノーズの2ドアクーペという理にかなった布陣であった。
すでに40年も前のことになるが、セリカはそのスポーティにして流麗なボディ以外にも大きな特徴があった。残念ながらその特徴は後々定着することなく初代セリカの段階でその使命を終えた。「フルチョイス・システム」のことである。

フルチョイス・システムとは、文字通り好きな仕様をユーザー側が選べるシステムを言う。初代セリカの場合、DOHCエンジン(あまりにも有名な2T-G型エンジン。その後カローラ・レビン/スプリンター・トレノにも搭載されて一世を風靡した)を搭載した「GT」のみを専用仕様として、他にET、LT、STというボディ(ほとんど差がなかった)を選び、エンジンも1400OHV、1600OHV、1600ツインキャブOHVを選べる。細かいことは忘れたが、他にもいろいろと装備をチョイスできる設定であったように記憶している。
その3年後に登場するパブリカ・スターレット(初代はパブリカの名称を冠していた)にも同じようなシステムの「フリーチョイス・システム」が採用されたが、こちらも初代の段階でその使命を終えている。

40年前ともなれば、あらゆる状況が今とは違う。コンピューターも普及していないから、自動車を作る側も、売る側も、買う側もこのシステムで苦労したことは想像に難くない。それでもこのシステムを考え出した当時のトヨタの担当スタッフとそれを許容した経営側の英断に拍手したい。
ここで改めて思うのだが、このシステムを今こそ多少手を加えて使えないものなのだろうか・・・・。
前回のコラムでも触れているが、これからのクルマ作りの大きなファクターとなるのが「低価格」である。クルマ作り自体の高効率化ではGMとクライスラーが大きな失敗をおかしているから、ここは避けなければいけない。クルマの基本部分の価値(付加価値や基本性能)には絶対に手を抜くことをしてはならない。当たり前だけど。

今は、オプション選びが全盛である。これも言ってみればフルチョイスに近いのであるが、現状のものは、一定のバリエーション(これが甚だ多い)があって、そこからさらに装備を選ばせるシステムであって、かつてのフルチョイス・システムとは目指している根底の発想が違う。

例えば、今後最も「低価格」と対峙していかねばならない軽自動車を例にとってみると、一番基本車種が少ないホンダで5種、三菱が6種、スズキが10種、ダイハツに至っては15種もある。日産とマツダは他社からのOEMなので除外するが、その基本車種の中にさらに仕様が数種類存在するから、その数たるや推して知るべしである。
選択肢が多いこと自体を真っ向否定するつもりはないが、このスーパーマーケット的ラインアップが価格設定の大きな障害になっているように思えてならないのだ。

もとより、基本仕様は一つあればそれでコトが足りるはず。私が考える方法とは、

  1. ボディは一つ。エアコン、パワーステ、安全装備のみ標準(ABSは標準が望ましい)。
  2. エンジンはターボとノンターボ(超省エネが望ましい)の2種類。
  3. ミッションの主流はCVTだが、技術的にはマニュアルミッション選択も可能なはず。
  4. 当然2駆と4駆(ない場合もある)も選べる。
  5. タイヤ、ホイール、シート、ハンドル、オーディオ、ナビ、計器類等は従来のオプション選びと何も変わらないず。
  6. サスペンション設定は、最もヘビーデューティな設定を当初より選択。

といった感じだ。基本仕様の超シンプル仕様でいい人にとっては、おそらくハッチなら60万円代、ワゴンでも70万円代で購入可能だろうし、メーカーやディーラーにとってはニーズの状況に合わせて各パーツを揃えればいいわけで、最初はともかく中長期的には大幅なコスト削減に結びつくはずである。

この社会実験をぜひ軽自動車から始めてもらいたい。
つくづく思うのだが、日本人は確かに「過剰装備大好き症候群」に陥っていることは間違いないのだが、使いもしない装備に執着している時代でもないはずである。その意識改革を率先できるのは、なんと言ってもプロダクト側にしかあり得ない。


‘70年にデビューしたトヨタ・セリカ。その流麗なボディは当時の若者が欲しいクルマでもトップクラスだった。レースやラリーシーンでも大活躍したが、意外にも画期的なシステムと思えたフルチョイス・システムのことはあまり浸透したとは思えなかった。当時としては複雑な顧客対応手続きなどが仇になったものかどうかもさだかではない。

まず街でも見かけることがなくなった初代スターレット。一般的には軽量な2代目のKP61型スターレットが有名だが、このKP47型スターレット1200(1000ccはKP45型)が元祖。セリカの3年後のデビューになるが、フルチョイスに近いフリーチョイス・システムを導入。こちらもセリカ同様にそのシステムは浸透しなかった。


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